読書で振り返る2024年
今年は結構本を読んだ。以前はノンフィクションやエッセイばかりを好んで読んでいたが、今年は小説をかなり読破した。面白いと勧められて、過去に小説を読んだこともあったが、ほとんどが途中で投げ出していた。頭に入ってこない、場面が想像できない、世界に没入できない…。物語より情報を得たがる現代人らしい読書タイプだったのだが、こんなに小説を読むようになるとは。これも歳のせいだろうか。その代わり、映画はすっかり見なくなったけど…。
シベリアの森の中で (シルヴァン・テッソン)
冒険家である著者が、電気や水道などのインフラがまったくない小屋で過ごした一年間の日記である。まさに日記をそのまま出版した形なので、記述が数ページにわたる日もあれば、1行で終わるときもある。シベリアにあるぽつんと一軒家のような小屋なので、ほぼ無人島に流されたといっていい孤独の日々が続く。たまに、数十キロ先の近所の人が訪れることもあるが。刺激に満ちた冒険の日々から一転、平穏で退屈な日々は冒険家を哲学者にするようだ。隠遁生活で吐かれた哲学的な言葉のいくつかは心に染みた。
謝辞に「このプロジェクトは仏ロ交流年記念で行われたもの」との記述には正直興ざめ。自ら場所を選び、隠遁生活を決行したものと思い込んでいたのだが、実は企画ものだったとは。
老人と海 (ヘミングウェイ)
言わずと知れた名作。息子が夏休みの宿題で読書感想文を書かねば、ということで本のチョイスを頼まれた。いつものごとく、夏休み後半で言われたので、ボリューム少なめのこれを勧めた次第。自分自身も読んだことはなく、高校生の頃に観た映画の記憶があるのみ。映画にはすごく感動した覚えがあって、いつかは原作を、と思っていたのでちょうど良かった。数十年越しの実現にはなったが。
昨年、同じくヘミングウェイの「武器よさらば」を読んで、そのハードボイルドな世界にイマイチ浸れなかったが、本作は老人の孤独感と疾走感ある海上での描写に、結末はわかっていたものの感動した。
コミックとラノベしか読まない息子は、ストーリーではなく文体への没入を求められる本作に対し、どんな感想文を書いたのだろう?
綺羅星波止場 (長野まゆみ)
宮沢賢治が好きで、世界観が似ている著者の作品に若い頃ハマっていた時期がある。読みかけの本作を本棚で見つけ、数十年ぶりに読破した。
これは7つの短編と1つの中編で構成されている。サスペンスチックな中編「銀色と黒蜜糖」が一番印象に残っているが、その前段に収録されている「月夜の散歩」もなかなか良かった。とある月夜の不思議なエピソードで、宮沢賢治の「月夜のでんしんばしら」を彷彿とさせるものがあった。
少年アリス (長野まゆみ)
長野作品の特徴は、回収されない謎のエピソードの数々。昨今、伏線回収される作品がもてはやされているが、長野作品は回収なんてしない。読み手のご想像にお任せ、完全セルフサービスなのだ。
耳猫風信社 (長野まゆみ)
宮沢賢治感あふれるタイトル。「猫の事務所」っぽい。猫の世界に迷い込み、人の姿をした猫と少年との交流を描いたもの。犬ではなく猫なのだ。猫の自由奔放であり、ミステリアス感がこの著者の作品にはよく似合う。
夏帽子 (長野まゆみ)
少年しか出てこない(σ(^^)が読んだ限りでは)長野作品だが、本作は珍しく臨時教師が主人公。ストーリーも荒唐無稽なファンタジックさはなく、いたって現実路線。臨時教師が、短期間赴任する学校での生徒との交流を描いた短編集であり、仕事の休憩時間にちょうどいい読書本だった。
去年の雪 (江國香織)
長野作品から引き続き、何か小説でも…と思いチョイスしたのが江國作品。ほぼ小説初心者のようなものなので、長編に挑むには気が引けて短編集を探していたら、これにたどり着いた。全く関連性のない短編が延々と続くが、時空を超えて互いの短編とのつながりを示唆するあたり、長野作品に通じるものがあったかも。
つめいたいよるに (江國香織)
心にしみる短編揃いだが、一番印象に残っているのは最初の「デューク」。50代のおっさんでもこれは感涙。犬を飼った経験がある人なら必ずそうなるだろう。ググると、この「デューク」、国語の教科書でも取り上げられているらしい。でも、無味乾燥な学校の授業で、この名作に出会いたくはないなぁ。
一人称単数 (村上春樹)
村上春樹はエッセイをよく読んでいたが、これが彼の小説初体験だ。ただ、彼の長編を読破できる自信がなく(1冊で完結しないものばかり)、短編集の本作をチョイス。心に残ったのは「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」。ビートルズのレコードジャケットを抱え、校舎の廊下を駆ける女子の描写がなんとも印象的で、観たこともないはずの映像がしばらく脳裏に焼き付いていた。
日の名残り (カズオ・イシグロ)
村上春樹に手を出したのなら、イギリスのこの方も外せない。短編集ではなく、意を決してこの長編を購入したのだが、完全にドハマリして一気に読み切ってしまった。映画「わたしをはなさないで」で感動していたこともあり、カズオ・イシグロの名は記憶の片隅に残っていた。タイトルが示す通り、古き良きイギリスと主人公の人生の終盤を描いており、現役世代から外れつつある自分自身にも重なるところがあり、読後の感動は半端なかった…。